No.170 長谷川正の「言ったモン勝ち」
ラズパイ(Raspberry Pi)は使いにくい
以前のブログにて、外部講師を呼んでラズベリーパイ(Raspberry Pi 以下ラズパイ)を学んだことは掲載しました。ラズパイとは、当初は教育目的で開発されたマイコンボードと呼ばれる基板むき出しの超小型コンピュータですが、ディスプレイやキーボードと接続することで超小型パソコンとして利用できます。また、USB、有線/無線LAN、HDMI、GPIOピンなどのインターフェースを搭載しているため、LEDやセンサーなどの電子部品を接続し、ネット上に公開されているプログラム(ソースコード)をコピー利用することで簡単にデータ蓄積が可能となり、最近では中小企業にて活用されることが多いそうです。価格も約11,000円(Raspberry Pi 4GB R5/3現在)という手軽さも魅力的なのかもしれません。
M5Stackとの出会い
ですが、製造業を営む者の個人的意見として、ラズパイは何でもできる高性能なシングルボードコンピュータで有るが故に、実際の工場内での見える化のスタートアップ的な使い方であればあるほど非常に使いづらいと感じます。特に基板むき出しのボードは工場内の過酷な環境には適していません。オプションとして保護カバーや冷却ファンも別売りしていますが、わざわざ購入して組み立てるのも面倒くさい。また、センサーなどとの接続方法はGPIOピンなどを利用しますが、ブレッドボードにピンを指して使うのは強度的に問題がありそうです。また、数値の表示にはディスプレイを外付けする必要があるし、ボタンの一つでも抵抗などを追加しなければなりません。そんな状況ですので、せっかくラズパイを学習しても実際の製造工場への実装は躊躇せざるを得ませんでした。そんな時、地元埼玉の武蔵野銀行と東洋大学が主催するIoT勉強会「デジタルエンジニアリングアカデミー」の教材としてM5Stackに出会い、直感的に感じました。
これなら使える・・・。
導入のきっかけは「クレーム」
当社の強みのインジェクションブロー成形は、インジェクション成形とブロー成形をミックスしたものですが、インジェクション成形だけの製品も取り扱っています。とある日に某企業から電話があり、「製品の表面模様が前回と違う」とのクレームを受けました。その製品はインジェクション成形にて、表面に「シボ加工」が施されたものでした。「シボ加工」とは表面処理のひとつにあたり、物理的にシワ模様(シボ)をつけることです。インジェクション成形では、金型表面の細かい模様(凹凸)をプラスチックなどの素材へ転写することによって「シボ加工」を生み出すことができます。なお、クレームの発生要因を探ろうとした時に、当社で使っている「シボ加工」金型は1種類しかないこと、射出成形機の条件も全く同じであったことから、要因は季節による室温変化によるものだろうと一方的に結論づけてしまいました。後から分かることですが、これは結局のところ全くの見当違いです。もし、年間で1回程度ではなく、複数回の受注があれば回避できたクレームかもしれません。
「○○したから大丈夫」を疑え
その後の調査にて「金型温度を一定に保つ冷却水が水管詰まりのために循環せず、金型温度が異常上昇していた」と本当の原因が判明しました。現場オペレーターは、確かに冷却水ポンプのスイッチをオンにしたけれども、冷却水が正常に循環していることまでは確認していなかったのです。ですが、これは誰にでも起こりうるミスであり、「確かにスイッチはオンにしたから大丈夫」との思い込みが確認判断を鈍らせました。
さて、下記に挙げるのは温度管理を中心とした一般的な不良発生防止案です。(流出防止案も別途あります。)
1.冷却水の循環確認および温度管理
2.金型の温度管理
3.金型内部のプラスチック樹脂の温度管理
最も効果的で安価な対策案と考えたのが「2.金型の温度管理」です。つまり、市販の温度センサーを金型表面に貼り付けてリアルタイムでの温度推移を近くのモニターで監視すれば、同時に冷却水の循環もチェックできるし、プラスチックなどの素材へ転写レベルを一定にキープできると見込みました。そうだ、温度センサーを使ったデータの取得、これにM5Stackを使おう!
実際の自作IoT導入事例は次回のブログから始まります。
M5Stackはこの機能がスゴイ!
ここでは最もベーシックなM5Stack Basicを例に挙げて、私が使い易いと思っている機能を下記に述べます。価格も約6,000円(R5/3現在)と、気軽に試すことができるのが魅力的です。
CPU
M5StackにはESP32(Espressif Systems製マイコン)が搭載されており、GPIO(汎用入出力)・A/Dコンバータ・シリアル通信ポートなどの一般的なマイコン機能も備わっています。データ収集などのシンプルな仕事にはESP32で十分と私は考えています。
無線通信(Wi-Fi, Bluetooth)
ESP32により、Wi-Fi(2.4GHz帯)とBluetooth通信を扱うことができます。IoTシステムでセンサ値をクラウドにデータとして蓄積したり、LEDやモータの制御、無線通信によって他のデバイスやアプリケーションと連携する時に便利です。
Grove拡張ポート
私がM5stackを推奨する最も優れた機能です。「Grove」と呼ばれる規格のコネクタが本体に組み込まれているので、市販のGroveケーブルを使ってセンサーなどを簡単に接続することができます。ただし、通信ポートによってコネクタが色別されています。※「(赤)ポートA:I2C用」「(黒)ポートB:I/O用」「(青)ポートC:UART用」
筐体(きょうたい)
寸法は54×54×17mmと非常にコンパクトです。プラスチックの筐体で基板を保護しているので、持ち歩きやセッティングなどにも自由度が高く、落下などの衝撃にも耐えうる構造となっています。ラズパイは保護ケースが別売り、冷却ファンも必須ですので、この点でもM5Stackはコストパフォーマンスが高いです。
ディスプレイ
本体表面に320×240カラーTFT液晶ディスプレイ(2インチ)が搭載され、文字や数値などの情報表示や、グラフィックの描画などができます。プログラム開発中のデバッグ作業で数値や状態を表示させたいときに便利です。
ボタン
ディスプレイの下部にプッシュボタンが3つ備え付けられています。M5Stackではボタンや抵抗器をわざわざブレッドボードで配線することなく本体のボタンを使えるのでとても便利です。
microSDカードスロット
本体側面にmicroSDカードスロットが搭載されており、カード内データの読み込みや書き込みが可能です。クラウドを利用しない場合に重宝されます。※使えるのは容量16GBまで。
バッテリー
本体にはリチウムイオンポリマーバッテリー(3.7V, 150mAh)が内蔵されており、外部給電無しで作動させることも可能です。拡張バッテリーやUSB端子(Type-C)を用いての給電も可能です。
スピーカー
内蔵スピーカが搭載されているため、任意の周波数のビープ音や、音楽ファイル(MP3, WAV形式)を再生させることができます。なお、M5StackライブラリのV0.3.0以降にて、音量の調整ができるようになりました。音質はイマイチですが…。
参考)【M5Stack】センサで金型の温度測定とは?
参考)【M5Stack】センサ接続ケーブル長さの限界とは?
参考)【M5Stack】WiFi経由でスプレッドシートへのデータ書込方法とは?
参考)長谷川製作所の得意技術(防水照明器具製造)
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