事業承継は自転車ロードレースの先頭交代

第69回 長谷川正の「言ったモン勝ち」


前回ブログにて、事業継承はバトンタッチとは全く違う、と言い切りましたが、むしろ、実際に私が事業継承と考えているのは自転車ロードレース競技の先頭交代です。自転車ロードレースと言えば、世界的に有名なのがツール・ド・フランス。その中で、何十台もの自転車が集団となって猛スピードで走り去るシーンをテレビで見たことがある人は多いでしょう。

仮に会社を単位として集団で走っているとします。当然ながら先頭を走り集団(会社)を引いているのが創業者です。先頭は空気抵抗を受けることになるので強靭な体力を必要とします。一方でロードレース経験者であれば実感できますが、集団の中に入ってしまえば約7割の力でその集団の中の位置を維持することができます。後継者は集団の中で良く言えば体力を温存、力を蓄えることができます。逆に悪く言えば、怠けていても集団から遅れることはありません。何しろ、経験豊富で強いリーダーシップを持ち、技術に精通している創業者が集団を引っ張ってくれていますから。

また、創業者は路面状況や風向きなどの自然条件を計算してコース取りを行い、いかに他の集団よりも早く走るか、いかに集団を早くゴールに導くかを考えています。ここで必要なのは環境変化への対応力、判断力、経験力などでしょう。一方で集団の中にいる後継者は何も考える必要はありません。創業者の背中についていくだけです。しかし、創業者のすぐ後ろに位置取りしていれば、先頭が何を考えてどのように行動するのかを学ぶことができます。

そして、進むべきコースは山あり谷あり平坦ありです。山を得意とするクライマー型の創業者もいれば谷を得意とするダウンヒル型、平坦を得意とするスプリンター型も存在します。同じ創業者がずっと先頭を引っ張っていった場合、能力によっては他の集団より先行することがあるでしょう。ですが、創業者の能力は万能ではありませんので、いずれは他の集団に後れを取ることになります。

他の集団が自分たちを追い抜いていった時、創業者がどう思うかはそれほど重要ではありません。最も重要なのは、集団の中にいる後継者がどう思うかです。

「先頭の創業者のペースがかなり落ちてきな。さっきから追い風が向かい風に変わっているのにも気付いていないのかよ。それにこの道は平坦に見えるけど実際はダラダラと登りだ。このままじゃ抜かれっぱなしだよ~。よし、集団の中にいたおかげでたっぷりと足をためることもできたし、ここはオレが先頭に出よう。創業者は集団の中に入れておけば少しは回復するし、もしなにかあれば相談しよう。さあ、ギアを上げるぞ!」

そんなシーンが、私が考える事業承継の望むべき姿です。

事業承継は自転車ロードレースの先頭交代


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